福岡県大牟田市動物園で舞台にした映画「いのちスケッチ」を、ユナイテッド豊洲で見ました。
私の趣味の1つは動物園に行くこと。
大牟田市動物園には1回だけですが行ったことがあります。
大牟田市動物園の飼育員さんのトークイベント(@東京)に参加したり、
大牟田市動物園も受賞歴がある、エンリッチメント大賞のパネル展示を見学したことがあります。
私は、90%以上動物園好きの立場で見ましたが、
動物園のドキュメンタリー映画ではないので、動物園にはあまり興味がない人は、
若者が生き方の模索する姿、
人口が少なくなっている地方は、若者が夢を実現する場になり得るか、
家族・地域メンバーの老いの問題、
などの切り口で見ることもできると思います。
ただ、映画でせっかく大牟田市動物園の動物福祉の取り組みについて詳細に描いているので、
映画を見たら、ぜひ、行かれる範囲の動物園に行ってみてほしいです。
大牟田市動物園訪問時の写真も載せていますのでぜひ見てください。
目次
映画「いのちスケッチ」あらすじ
主人公の亮太は、東京で漫画家を目指していたが、
バイト先の社長が夜逃げ、一緒に頑張ってきた仲間の連載が決まるも自分は新人賞応募作品のペンが進まず、
限界を感じて故郷・福岡県大牟田市に戻る。
上京する際父親と喧嘩別れしたため、実家に戻ることができず、
祖母・和子の家に行くと、そこには見知らぬ若い女性が住んでいた。
仕方なく、旧友の家に転がり込んだ亮太は、その友人から地元の動物園のアルバイトを紹介される。
動物園は人手不足で忙しく、亮太はうやむやのうちに採用に。
亮太は祖母の家にいた女性が、動物園の獣医師、石井彩だと知って驚く。
彩はアメリカの大学を卒業し、今も各地の動物園からの誘いが絶えない優秀な獣医師で、
延命動物園では、彩を中心に、ライオンの無麻酔採血や、動物が自分で選択できる環境作りなどの動物福祉に取り組んでいた。
しかし、動物園は市の予算削減から閉園の危機にあり、
亮太は彩から、動物園の取り組みを漫画で多くの人に知らせることに協力してほしいと頼まれる。
亮太は、自分にはそんな責任の重い仕事はムリだ、と躊躇するが、
担当していた動物の死、
認知症の祖母が昔を描いていたいたことを知ったことなどを通して、もう一度漫画を描くことを決意する・・・
映画「いのちスケッチ」感想
最初は、主人公の亮太は覇気のない子だし、
彩は正論が先走ってキリキリしているし、
居心地の悪い映画だなあ、最後まで見られるかなあ、と心配になりましたが、
だんだん、自分たちは意味のある取り組みをしている、という誇りと
来園する普通の人たちに「伝える」ことも動物園の大切な使命である、という認識とで、
飼育スタッフのベクトルが同じ方向を向くようになり、絆が感じられるようになりました。
動物園の集客と、認知症の祖母と向かい合うこと、
という2つの理由で、亮太が絵を描きだしてからは、
地元の空気感を感じる、温かい物語として見ることができました。
映画に登場するライオンのアサヒくん、リラちゃん、キリンのリンくん、プリンちゃんたちには実際に会ったこともあるし、
普段から園が発信する情報で見ているので、知っている子が映画に出た!という感じで嬉しかったですし、
彼らが、自然にふるまっている様子から俳優さん達や撮影スタッフさんたちの姿勢が感じられました。
大牟田大蛇山祭りの場面や、荒尾干潟の景色、
また、大牟田市のほっと安心徘徊ネットワークが活用されるエピソードがあったり、と
大牟田のいいところ詰め合わせ、みたいな点も楽しかったです。
- 大型肉食動物に麻酔をかけないで尻尾から採血すること
- 動物に、居場所などの選択肢を作ること
という取り組みの意義が、動物園に関心がない人にも少しでも伝わっているといいなあ。
ハズバンダリートレーニングや環境エンリッチメント、という用語を映画の中で使わなかったのは、より一般の人に分かりやすくする意図なんだろうと理解しつつ、
あえてそういう用語を使った方が、ある意味、「すごそう」と思ってもらえたのかな、という気もします。
ところで、動物園の事務方・松尾さんの家庭の事情が語られるところは、
映画を見ている最中は「その設定って必要?」と疑問がありました。
もしかして、そういう境遇の女性の存在が大牟田(というか福岡県)あるあるで、地元の人がみたらあーそうよねーということなのでしょうか?
あるいは、予算の関係で家族役の俳優さんを出せないことの理由付け(笑)なのかもしれませんが・・・
劇中で亮太が仕上げた漫画の冊子、「いのちスケッチ」を全編読みたいです!
映画で今の動物園の課題と取り組みが分かる!
この映画の、漫画家になる夢に挫折したUターン青年と、
アメリカ帰りの女性獣医師を中心にしたストーリーはフィクションです。
映画の中の延命動物園の描かれ方は、大牟田市動物園の状況を反映している部分もありますが、
時系列が前後している個所もあって、現在の大牟田市動物園そのままではありません。
大牟田市動物園は、1941年の設立当時は「延命動物園」という名称で、1956年に大牟田市動物園となりました。
2006年以降大牟田市動物園は指定管理者制度で運営されています。
でも、
大牟田市動物園が、動物福祉の取り組みにおいて、
日本国内だけでなく、海外からも注目されている園であることは本当です。
映画の中で、日本で初めて、ライオンの無麻酔採血に成功していますが、これも本当のエピソードを元にしています。
(アメリカのオレゴン動物園が少し早く成功したため、世界初とはならなかったとのこと)
延命動物園および、現実の大牟田市動物園は、
日本中にたくさんあった、景気がよかった時代に地元住民のレクリエーションの場として作られた小さな地方の動物園です。
日本の動物園は、遊園地や植物園を合わせた小型の動物園が各地に点在しているのが特徴的で、
施設の老朽化と飼育動物の高齢化と予算・人手不足は、多くの動物園に共通した悩みです。
一方で、世界的な潮流で、今の動物園にはより動物福祉に配慮した飼育環境・方法や、
野生動物の保全に貢献が求められています。
その中で、大牟田市動物園は、
- 動物の数を減らして少ない職員数で1頭ごとにかけられるリソースを増やす
- 動物福祉に全園で積極的に取り組み、その情報を発信する
- 動物を通したこころの交流をテーマに、スタッフ、飼育動物、来園者の交流を進める
ことに注力して、来園者数の大幅な改善を実現しています。
実際の大牟田市動物園はこんなところ
私が行ったのは映画公開の2年前です。
入口には、「ゾウはいません」という看板が。
かつては、小さな動物園でも必ずと言っていいほど、ゾウが1頭または2頭はいました。
しかし、本来ゾウは群れで生きる動物で、大牟田市動物園では、ゾウを複数頭飼うことができないため、今後ゾウは飼育しません、という掲示です。
この時も、ライオンのアサヒくんとリラちゃんのトレーニングを見学することができました。
太ももに触れても気にしない、という練習。
バリカンで剃毛したしっぽ。ここから注射器で採血します。
キリンのトレーニングも。
キリンは首から採血するため、首に触られても逃げない、という練習をしていました。
映画の中で紹介されていた日本最高齢だったペリカン、ペリーさん。
当時55才。
映画ではライオンの無麻酔採血を中心に取り上げていますが、他にも、
- モルモット(テンジクネズミ)が、日中過ごす場所、ふれあいに参加するかどうかを自分で選べる
- レッサーパンダの部屋にボルダリングを設置して運動量を増やす
- キリンの脚のレントゲン撮影
- 駆除されたヤクシカの屠体を大型肉食獣に与える
など、さまざまな取り組みが行われており、私が訪問した2年前よりもさらに進化しています。
園内では、何を意図して、どんな取り組みをしているのか、を分かりやすく掲示しています。
モルモットとの触れ合いは、多くの動物園で実施されていますが、
大牟田市動物園では「抱っこ」はなし。
ふれあいコーナーにいるモルモットの、背中を撫でるだけ、となっています。
映画では、マナー・ルールを守らない来園者がたえず、
動物園が閉園の危機に面していることもあり、
動物園のスタッフが、特に前半はピリピリ、キリキリしていましたが、
実際の大牟田市動物園では(もちろん、マナー違反・ルール違反は注意されますよ!)、
飼育員さんたちはとてもフレンドリーでやさしいです!←ここは強調しておきたい
こちらから質問にも親切に答えてくれるし、
しばらく同じ動物を観察しているとむこうから話しかけてくれたりします。
大牟田市動物園の最新の取り組みは、
KBS放送「アサデス!」、「ガマダセ動物園」のコーナーで定期的に取り上げられており、
放送エリア以外でも動画を見ることができます。
「いのちスケッチ」を見たら身近な動物園に行ってみよう
大牟田市動物園が行かれる範囲にある人はぜひ行ってみていただきたいですが、
大牟田市動物園だけではなく、現在は、全国の動物園で、動物福祉に取り組んでいますので、映画を見たら身近な動物園に足を運んでみてください。
(強弱や進み具合はそれぞれですが)
首都圏では、私のおすすめは
- よこはま動物園ズーラシア
- 埼玉県子ども動物自然公園
の2園です。
よこはま動物園ズーラシア
アジアの熱帯雨林、アフリカのサバンナ、などエリアごとに、野生動物の生息地に合わせた植物、その地域の文化を反映した建物があり、
動物の生息環境や、人間の生活とのかかわり
を考えられる構成になっています。
飼育員さんが動物におやつを上げながらトークするガイドが毎日実施されているので、
入口でタイムスケジュールのパンプレットをもらってぜひ参加してみてください。
インドゾウのトレーニングは、ガイドとは別に、11時半~12時の間に行われており、その時間に行けば見ることができます。
来園者が動物にあげるおもちゃを作って環境エンリッチメントに参加するイベントや、
絶滅危惧種の状況を遊びながら学べるイベントも多く実施されています。
埼玉県子ども動物自然公園
動物の身体能力や生息域の状況などを、
手作りのパネルで分かりやすく表示しています。
このパネルでは、日本でのカワウソペット人気が、コツメカワウソの密猟に関係していることなどを知らせています。
フンボルトペンギンの営巣地に人間がお邪魔させてもらう形のペンギンヒルズも
まじかにペンギンが見られて楽しいですよ。
ふれあいではないので、ペンギンに触ることはできません。
ペンギンが歩いていたら人間がペンギンに場所を譲ります。
動物園に行く時に注意すること
映画「いのちスケッチ」では、
動物に勝手にえさをやる
などの来園者の問題行為が取り上げられていましたが、
えさやりが許可されているふれあいコーナー以外で、
動物に勝手にえさをやるのは、園内に生えている植物であってもダメです。
他にやってしまいがちなこととしては、
- カメラのフラッシュ、AF補助光を切らない
- 動物に大声で呼びかける
が多いですね。
フラッシュを向けられたらまぶしいですよね?
AF補助光は忘れがちですが、これも1日に何回も当てられたらイヤだと分かりますよね。
小さなお子さんが「ゾウさーん」などと呼びかけるのは、人間の立場からすると微笑ましいですが、
ずーっと家の前で大声で呼ばれたらうるさいですよ。
寝ている動物を起こそうとしる人も多いですが、ダメです。
動物への暴言などもってのほかです。
また、最近は、動物が日中過ごす場所も選択肢を持たせて、
暑さ寒さや人目をさけられるようにしている動物園も多いです。
人間の都合からすると見づらい、ということになるんですが、そこは動物に優しんだな、と解釈しましょう。
展示場の奥の方にいる動物を見るために、双眼鏡を持っていくのがおすすめです。園で借りられるところもあります。
まとめ
- 動物・動物園が好きな人
- 将来、動物園での仕事をしたい学生さん
- 人生に迷っている人
- 方言で話す映画の雰囲気が好きな人
- 地方を舞台にした映画が好きな人
映画を見て、ちょっとでも「へえ、最近の動物園ってこんなことをしているんだ」と思ったら、
ぜひ、実際に動物園に行ってみてください。